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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)905号 決定

再抗告人

株式会社日教木工所

代理人

山本実

主文

本件再抗告を棄却する。

理由

再抗告人の抗告の趣旨および理由は別紙記載のとおりである。

案ずるに民事訴訟法五四九条によれば、同条による異議の訴の管轄裁判所は執行裁判所であり、同法五四三条によれば、執行裁判所とは「執行行為の処分」と「執行行為の共力」を行なう地方裁判所であつて、その土地管轄は執行行為が行なわれる場所を基準として決せられる。民事訴訟法七三三条一項による決定は、「執行行為の処分」の一つであることは疑ないが、管轄裁判所は特に債務名義成立に関与した第一審の受訴裁判所と定められている。従つて同条の決定は受訴裁判所が執行機関として行なうわけであるが、これを行なうことによつて受訴裁判所が前段にいう執行裁判所とみなされるのでないことは、受訴裁判所が簡易裁判所や家庭裁判所の場合もあることを考えれば自明である。

本件債務名義による建物収去土地明渡の強制執行においては、武蔵野簡易裁判所が受訴裁判所として収去命令を発したのであるが、その命令の執行者は川口市内の物件所在地に臨んで建物収去をするのであり、更に民事訴訟法七三一条による土地の現実の引渡の執行も、同所において浦和地方裁判所執行官によつて行なわれるべきものであり、またその執行行為の共力は執行裁判所である浦和地方裁判所がこれを行なうべきものである。これらはそれぞれ執行機関であるけれども、執行裁判所は浦和地方裁判所であつて武蔵野簡易裁判所ではない。

従つて、本件第三者異議訴訟の管轄裁判所は浦和地方裁判所ということになるから、同じ見解に立つ第一審の移送決定を維持した原決定は相当であり、本件再抗告は理由がないから棄却する。(近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

再抗告の趣旨

原決定を取消す旨の裁判を求める。

再抗告の理由

原決定は、民事訴訟法第五四三条第二項第五四九条第三項、第七三三条、第五六三条等の解釈を誤つた違法があり、これは原決定に影響を及ぼすこと明らかであるから、原決定の取消を求めるものである。その理由は、左のとおりである。

第一点、抗告人の提起した本訴(第三者異議の訴)の目的は、武蔵野簡易裁判所昭和四三年(ハ)第九二号建物収去土地明渡請求事件の認諾調書の強制執行不許である。従つて、右訴の管轄は、右認諾調書に基く強制執行の執行裁判所の専属管轄に属する(民事訴訟法第五四九条第三項、同第五六三条)。そして、右認諾調書の内容は、建物収去、土地明渡という代替的作為義務であるから、その執行裁判所は、代替的作為義務をなし得る権限を付与する第一審の受訴裁判所である(七三三条、五六三条)。従つて、本件第三者異議の対象たる債務名義は、武蔵野簡易裁判所で成立した認諾調書であるから、その執行裁判所は、右事件取扱の第一審裁判所である武蔵野簡易裁判所である。

第二点、原決定の趣旨によれば、代替的作為義務の強制執行については、執行裁判所が、二つ存在することになり、矛盾も甚しい。

第三点、又、原決定によれば、代替的作為義務の強制執行は、別個独立の執行機関が、二つあることになり、その一、即ち、第一審受訴裁判所が、一つの執行機関として、授権決定をなしたのみでは完結せず、更にもう一つの執行機関たる執行官の具体的執行々為がなされることによつて、完結するものであつて、右授権決定をなす執行機関と具体的執行々為をなす執行官とは夫々別個独立の執行機関と解している。しかし、右代替的作為義務の強制執行の執行機関は、第一審受訴裁判所であつて、代替執行をなす債務者以外の者は、右執行機関の補助機関であつて、このことは、その執行者が、執行官でも執行官以外の者でも同様である。(昭和三一(ラ)第五六、昭三二・二・四札幌高裁二決)。

第四点、実質的に考えても、本件第三者異議の対象たる債務名義は、受訴裁判所たる武蔵野簡易裁判所で成立したものであり、右債務名義に基く授権決定も、同裁判所でなされている。これに対する第三者異議の訴は、正に右同裁判所で審理されるのが妥当であり、合理的である。

第五点、本件の具体的執行々為をなすものは、右武蔵野簡易裁判所の授権決定によつて、東京地方裁判所八王子支部執行官とされている。正に授権決定も武蔵野簡易裁判所であり、その具体的執行々為をなすものも、東京地方裁判所八王子支部の執行官である。従つて本件に於ては、如何なる点より考えても、武蔵野簡易裁判所のみが本件第三者異議の訴の管轄裁判所であると解せざるを得ない(民事訴訟法第五六三条)。

以上要するに原決定は、民事訴訟法第五四三条第二項、第五四九条第三項、第七三三条、第五六三条等の解釈を誤つた違法があり、これは原決定に影響を及ぼすことが明らかであるから、原決定の取消を求める。

(参考)原決定

(東京地裁昭和四四年(ソ)二五号、同年一〇月三一日民事二三部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一 抗告の趣旨

右当事者間の武蔵野簡易裁判所昭和四四年(ハ)第一三〇号第三者異議事件、昭和四四年(サ)第四九四号強制執行停止決定申請事件につき同裁判所が昭和四四年九月九日なした移送の決定はこれを取消す。

第二 抗告の理由

1 抗告人は、被抗告人を被告として武蔵野簡易裁判所に対し同庁昭和四三年(ハ)第九二号建物収去土地明渡請求事件の認諾調書(以下「本件認諾調書」という)を債務名義とする強制執行につき第三者異議の訴を提起し(同庁昭和四四年(ハ)第一三〇号)、併せて右強制執行停止決定の申請をなした(同庁昭和四四年(サ)第四九四号)ところ、同裁判所は、昭和四四年九月九日、本件認諾調書の給付内容が、埼玉県川口市大字柳崎字外記五四一番の一ないし三の各土地上に存する三棟の建物を収去し、その敷地を明渡すことにあるから、その強制執行をなすべき執行官の所属する浦和地方裁判所が専属的に管轄することになるべきである、として前記第三者異議事件および強制執行停止決定申請事件を、浦和地方裁判所に移送する旨の決定をなした。

2 しかしながら、本件認諾調書の内容は、建物収去土地明渡という代替的作為義務であるから、本件認諾調書を債務名義とする強制執行の執行裁判所は、本件認諾調書が作成された事件の第一審の受訴裁判所である武蔵野簡易裁判所である(民事訴訟法第七三三条、同第五六三条)。

よつて、武蔵野簡易裁判所のなした前記移送決定は専属管轄の規定に違背するもので取消さるべきである。

第三 当裁判所の判断

1 原審記録によれば、抗告の理由1の事実、本件認諾調書の給付内容が、埼玉県川口市大字柳崎字外記五四一番一ないし三の各土地上に存する別紙目録記載の三棟の建物を収去して各敷地部分を明渡すことにあること、および武蔵野簡易裁判所が、被抗告人の申請により、昭和四四年九月七日、被抗告人の委任した東京地方裁判所八王子支部執行官は、別紙目録記載の建物を相手方(本件認諾調書の債務者である大谷健蔵)の費用において遅滞なく収去することができる旨のいわゆる授権決定をなした事実が認められる。

2 民事訴訟法第七三三条において、第一審受訴裁判所を代替執行についての授権決定を行う執行機関としたのは、債務名義の内容である作為義務が民法第四一四条第二項によつて代替執行をなすべきものであるかどうかの判断が本案に関するいわば続行的判断であることから、債務名義を形成する手続を行つた裁判所に裁判させるのを適当としたことによるものと考えられるのであり、民事訴訟法第七三三条は代替執行についての授権決定に関してのみ同法第五四三条第一項の例外を定めたものと解するのが相当である。すなわち、代替的作為義務の強制執行は、第一審受訴裁判所が執行機関として授権決定をなしたのみでは完結せず、右裁判の実施としての執行行為がなされることによつて完結するものであり、右執行行為が第一審受訴裁判所の管轄地外で行われることがあることはいうまでもないことであり、同法第七三三条は、授権決定に基づき具体的に執行行為をなすべき地を管轄する地方裁判所をもつて執行裁判所とみる(同法第五四三条第二項)ことを排斥するものではないと解するのが相当である。

3 これを本件についてみると、本件認諾調書の強制執行の対象たる物件は埼玉県川口市大字柳崎字外記五四一番一ないし三の各土地、および各土地上の建物であるから、右建物収去土地明渡の具体的な執行行為のなされる右土地を管轄する浦和地方裁判所が執行裁判所であるというべきである。そうすると右と同旨の見解のもとに第三者異議事件および強制執行停止決定申請事件を浦和地方裁判所に移送する旨の原審(武蔵野簡易裁判所)決定は正当である。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。(伊東秀郎 寺井忠 松本昭彦)

別紙・物件目録《省略》

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